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「ありがとう」

更新日:8月5日

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イソギンチャクのギンちゃんとヤドカリくんは大のなかよし。


いつもいっしょに遊んでいます。



そんなある日。あらしが起こって、ギンちゃんはヤドカリくんと


はぐれてしまいました。次に目がさめたときには、岩が平たい、


ひ上がったいそべにいたのです。



海にもどろうにも、歩いていける足がないギンちゃんはこまって


しまいました。たくさんある手をつかって、足の代わりにしようと


しても長さが足りなくて、体のとちゅうで手が止まってしまいます。



「ぼくにも足があったらなぁ、そうすれば海に帰れるのに。」



あつい太陽の日差しは、ギンちゃんの体をカラカラにかわかして


しまいます。たくさんある手もみるみるちぢんで小さくなっていき


ました。


そのとき、ギンちゃんに近づく足音が聞こえてきました。



「これは、にんげんの足音だ。」



いまはかんちょうで、となりのひがたには貝を取りに来た人間が


たくさんいます。でも、ギンちゃんはにげたくても動けません。



「きっと、ぼくもさらわれちゃうんだ。」


と、ギンちゃんは思いました。



海にやってきた人間は、ときどきなかまをさらいました。


さらわれてもどってきたなかまはいません。自分も、もうすぐ


さらわれるんだと思うとギンちゃんはこわくて、目をとじました。



すると、急にギンちゃんの体がうき上がったのです。



おそるおそる目を開けると、少年がギンちゃんを両手で持ち上げ


ていました。やっぱりさらわれるんだと思っていたら、少年は海水


がたくさんある水たまりにギンちゃんをそっと入れました。



みるみるうちにパリパリしていた体がフニャフニャとやわらかく


なりました。


元気になったギンちゃんを見て、少年はホッと息をはいて。


「よかったね。」


と、言い。その場から去っていきました。



その後。まんちょうになって、ようやくお家に帰ってくること


が出来たギンちゃんは、はぐれてしまったヤドカリくんとふたたび


会えました。



「ぶじでよかった。」


「ぼくも、もう会えないかと思ったんだ。」



おたがいのぶじをよろこびあったあと、あらしにまきこまれた後


のことを話しました。ヤドカリくんの方は、海流に流されただけで


せおっている家もヒビ一つなかったそうです。


そして、ギンちゃんは自分を助けてくれた少年のことをヤドカリ


くんに話しました。



「ぼく、もう一度あの少年に会いたいんだ」



すると、ヤドカリくんはいつもお世話になっているお礼に、いそべ


につれてってくれるとやくそくしてくれました。



次の日、ギンちゃんとヤドカリくんはかんちょうの時間が


近づいてきたころを見計らって、水たまりが出来る場所までいどう



しました。かんちょうになったころに水たまりから出て、少年と会


ったあの場所にたどり着くも、今日は人のすがたを見かけません。



「今日は、いないんじゃないか?」



と、ヤドカリくんがたずねるまで。ギンちゃんは少年が帰ってい


った方向を見つづけていました。



そして、来る日も来る日も同じように、いそべに上がって少年を


待つものの、少年はいっこうにあらわれません。



会えなくてギンちゃんがしょんぼり落ちこんでいると、友だちの


クマノミには「もうあっちはギンちゃんに会ったことなんてわすれ


てるよ。」と、言われ。



たこのおじさんには「にんげんに近づくんじゃない、お前もさら


われるんだぞ。」とおこられました。



くじけそうなギンちゃんを見ていた大家のサンゴには「人がいそ


べにくるのは夏の間がほとんどだから、秋になったらあきらめたほ


うがいい。」と、言われました。



ギンちゃんはヤドカリくんに相談しました。大家のサンゴが言う


とおりなら、夏が終わったら二度と会えなくなります。


あれからずっといそべにつれてってくれているヤドカリくん。


少年に会えなくても、ヤドカリくんがそばにいてくれたことは


ギンちゃんにとって何よりの心のささえでした。



すると、ヤドカリくんは


「お前は、にんげんに会ってどうするんだ。」


と、言いました。



「何がしたいんだ。」


と言われ、ギンちゃんは



「ありがとうをつたえたいんだ」


と、言いました。


「あのとき、助けてくれてありがとうって」



それを聞いたヤドカリくんは


「夏が終わるまでつきあってやるよ。」


と、ギンちゃんにやくそくしました。



夏が終わるまであと数日。あきらめないで行きつづけてみようと


ギンちゃんは決意しました。



そして、次の日。いそべに上がったギンちゃんとヤドカリくんは


おどろきました。


今出てきた水まりの前に、人間が立っていたからです。



「うわ、にんげんだ。」



ヤドカリくんは急いで水たまりに引き返そうとしましたが、


ギンちゃんが引き止めました。



「あのときの人だよ。」



ついに、少年とふたたび会うことが出来て、ギンちゃんはうれし


くてしかたありません。


少年はホッとした様子で「よかった。今度は友だちといっしょだ


からだいじょうぶだね」と、言いました。



どうやらギンちゃんがまた同じ様なことになってないかと心配し


ていたようでした。



あのときのお礼を言おうしますが、ギンちゃんは口をモゴモゴし


ています。いざ目の前となるとはずかしくなってきたのでしょう。



すると、ヤドカリくんに手をつつかれて、ようやく。


「助けてくれてありがとう」


と、少年に言うことが出来ました。


少年はニカッと笑って「どういたしまして」と、言いました。



その日、ギンちゃんとヤドカリくんは少年といっしょに遊びまし


た。あんなににんげんがこわかったのに、ぼくのこわいはどこにい


ってしまったんだろう。と、ギンちゃんはふしぎに思いました。



太陽がしずみかけて、雲が赤くなりはじめたころ。少年は


「そろそろ帰る時間だ」


と、言いました。



「また、来年くるからね。」


と言い、少年はお家に帰っていきました。



「おれらも帰るか。」


「そうだね。」



海の水がいそべにいっぱい広がったころ、ギンちゃんがとつぜん


「あっ!」と、さけびました。



「どうしたんだ。そんな大声だして。」


と、ヤドカリくんはたずねました。



「ぼくはあの人と友だちになったから、こわくなくなったんだ。」


「じゃ、お前の友だちのおれも友だちだな。」


「うん。友だちだね。」



ギンちゃんとヤドカリくんは、少年の帰っていった方を見つめて


言いました。



「また来年会いに来ような。」


「うん。また来年会いに行こう。」




作者:yukie


 
 

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