始まりはインターホンの音だった。
一人暮らしをしていた私の家に友人が、暫く泊めてくれないかと訪ねてきた。
理由は聞いたけれど、すぐに目線を逸らした。どうやら言いたくないようだ。
なので、それ以上は追求せずに客用の布団を用意する。
「 ありがとう。」
礼はいいから、自分の布団くらい自分で運んでほしいのだが。
その日の夜中。
トイレに立った私の足を、寝ながらも無意識で摑まえる友人。
「 ……いかないで。」
その一言で寂しいと感じている友人の心を見たような気がした。
だが、私はトイレに行きたかった。手を放してほしかったが、
寝ぼけてるからムリか。仕方がないと、そっと手を私の足から外した。
翌日、買い物に行こうとしたら。
「 私も行く。」とついてきた。
ついでに夕飯のリクエストはあるかと質問しながら、スーパーに向かう。
必要なものを選び、黙々と買い物カゴに入れていたら、友人の視線が後ろの子供を見ていた。
子供の両隣には両親がいて、嬉しそうな子供の姿を見て、微笑み合っていた。
色々と察することはある。だけど、友人が話さない限り、私は首を突っ込んではいけないと思った。
だから、デザートコーナーに行こうと声を掛けるだけにした。
友人が来てから、数日が経った。
友人の分の食料を買い足すのも疑問じゃなくなったある日、帰ってきたら友人の姿はなかった。
食卓に置かれたメモには
『 明日、戻ってくるから。』ということだけ。
リクエストされた夕飯は一人分にすればいいけど、デザートは友人の好きなやつだから食べられない。
――明日、消費させればいいか。
久しぶりの一人ご飯は退屈だった。
『 ……ごめんね。』
――ため息吐かせるような言葉、置いていくなよ。
友人はメモに書いてあったとおり翌日、家に戻ってきた。
「 泊めてくれてありがとう。でも、もう大丈夫だから。」
向かい合って座った友人は、その言葉とカラになったマグカップを残して、家から出て行った。
――しまった、デザートのプリン押し付けるの忘れてた。
私はまだ湯気が残ってる自分のマグカップに、普段は入れない砂糖を入れた。
ついでに冷蔵庫からプリンを出してきて、一緒に味わう。……口の中が甘ったるい。
でも、たまにはいいか。
今日は念入りに歯磨きしないといけないと思いつつ、夕飯は何作ろうかと考える。
――また、一人暮らしの日々が始まる。