暑い夏が徐々に秋へ変わっていく、そんなある日。
女の子は夜中に目が覚めてしまいました。
喉が渇いた女の子は、冷蔵庫を覗きますが飲みたいものがありません。
どうしてもジュースが飲みたかった女の子は、夜中に外に出てしまいました。
家の近くの自動販売機で、飲み物を買った女の子は家に帰ろうとしましたが、
突然、意識を無くして倒れました。
そして、次に目が覚めた時には、目の前に大きな大きな蛙がいました。
吃驚して、体が竦む女の子を見ているのか分からない目で、じーっと見ている
大蛙は、口をゆっくりと開けました。
そのまま近づいてくる大蛙から、女の子は逃げました。
息が切れるほど走って走って、辿り着いたのは崖でした。
もしかしたら出られるかもしれないと思い、試しに拳くらいの石を、女の子は崖に落としてみます。
……が、音が返ってきません。もう一回と、落としてみても音は返ってきません。
そうしていると、後ろから、……じゃりじゃり、……ずりずり、何かが近づいてくる音がします。
大蛙の顏が見えたところで、女の子は逃げました。
何度か、崖に着いて、石を落としてみても、結果は同じでした。
どの方向に行っても石の落ちた音は返ってきませんでした。
そうしてまた、……じゃりじゃり、……ずりずり、大蛙が近づいてきます。
逃げる足がもつれてる間に、大蛙の口の中に捕まってしまいました。
一瞬で呑まれるかと思ったら、大蛙の口の中は舌がありませんでした。
しかし、口を閉じられているので外に出ることが出来ません。
大蛙が首を後ろに倒すと、口の中の女の子はすべり台を滑るように口の奥に
滑り落ちそうになりますが、大蛙は呑みこむことはせず、今度は首を下に傾けて
女の子を口から出しました。
そして、逃げてみろと言わんばかりにその場に伏せました。
女の子は怖くなって、その場から逃げました。
女の子はだんだん疲れてきました。
いつまで逃げればいいのかわかりません。
どこに逃げても、逃げても、崖になっていて逃げられない。
いつの間にか足が止まっていました。
……もう駄目かもしれない。
膝が折れそうな女の子の耳に、鐘の音が届きます。
辺り一帯に響き渡るような、凛とした鐘の音が聞こえました。
どこから聞こえたのかはわかりませんでしたが、この音を頼りに
出口を探そうと、女の子は再び歩き出しました。
音に近づくにつれて、今度は声も聞こえてきます。
『……夢から醒めなさい。』と。
何のことかわからなかったが、やがて辿り着いた場所は、縄が巻いてある大きな岩の前だった。
走り回っていた時には気付かなかった岩に触れると、女の子は聞こえてきた声に導かれ、
岩を背にしてそのまま倒れました。頭に岩が当たって、女の子は気絶します。
――女の子は目が覚めると、病院の病室にいました。
体を動かそうとしますが、ベットに沈んだかのように重くて動きません。
知らない天井を見ていると、視界に現れたのは小さい鐘を持ったお坊さんでした。
『ちゃんと帰ってこれたようだね。おかえり。』
優しい言葉と大きな手が女の子の頭を撫でます。
やっと、あの恐怖から逃げてきたと実感が湧いて、
女の子の目からポロポロと涙が出てきます。
お坊さんは、何が起こっていたのかを話してくれましたが
女の子が聞けたのは「お坊さんが偶然、女の子の病室を覗かなければ
女の子は、あの化け物に喰われて二度と戻って来られなかった」
――ということだけでした。
あれから数日が経ち、女の子はなかなか起き上がれない体に苦戦しつつ、
病院でリハビリに励む毎日。完治に至るまでは時間がかかるようです。
あの日に会ったお坊さんは、町のあちらこちらを回っているそうです。
『化け物は倒されていない』
――女の子は、釘をさすように言われた言葉を思い出します。
『二度と、夜に出かけては、いけませんよ。』
――最近は家族が、そう念を押してきます。
窓から見える、夕焼けの淡い色合いが、どんどん薄くなっていきます。
今日も、夜が、来るでしょう。